或る少年の思考あるいは哲学の夜明け
著:Sohma
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火曜日。

世間一般では平日も始まったばかり。

でも俺達は休みだったりする。

私立万歳。創立記念日万歳。ついでにイルファさん万歳(個人的趣味)。

今頃せっせと働いている大人たちを思う。

ちょっとだけ優越感を感じる。

今頃るー☆と働いてる珊瑚ちゃんを思う。

ちょっとだけ切なくなる。

特にやることも無く野球のテレビ中継見てる時点で駄目だよなあ……。

とか思いつつなかなか腰があがらなかったりする。

怠惰/acedia 

七つの大罪の一つでもあった。

いい加減野球中継にも飽きてきたのでチャンネルを変えようとリモコンを……ってあれ?

リモコンが見当たらない。

いつもは手元においてある筈だ。

鳥篭の中のカナリア

もう大空に羽ばたいたのだろうか。

しばしの思考/Now Loading...。

結論:ありえない

ぶっちゃけシュールすぎる。

辺りを見回すと……なんだ、テーブルの上か。

よかった。珊瑚ちゃんに頼んで飛行機をチャーターする手間が省けた。

いざ取りに行こうとして立ち止まる。

待て、リモコンがリモコンたる理由はその利便性にあるはずだ。

主人がリモコンを取りにいくのはまあしょうがない。

空を飛ぶリモコンなどあろうはずが無い。

寧ろいらない。

あったら逃げる。

それはもう全力で。

閑話休題(ちょっと一休み)

つまりだ、リモコンを取りに行くよりテレビのチャンネルを直接変えたほうが数倍早いことに気づいたのだ。

それはリモコンの利便性を損なう。

アイデンティティが崩壊する可能性がある。

アイデンティティが崩壊した彼(リモコン)は何を思うのだろうか。

不貞寝するのだろうか。

電気羊の夢を見るのだろうか。

羊=ラム

電気+ラム=?

また馬鹿な想像をしてしまった。

話を戻してリモコンだ。

別にリモコンを取りに行ってチャンネルを変えれば良い。

そうすればリモコンのアイデンティティも保たれる。

でも俺は思う。

直接操作した方が早いのだ。

なのに何故わざわざ取りに行かなければならない?

それは癪だ。

機械に使われている。

本末転倒だ。

このままだと人類は機械に操られ機械の体を欲しキングスクロス駅の9と3/4番線から遥かなるイスカンダルへ銀河特急999で旅立つことになるだろう。

そんなこと考えずともこれではまるでテレビにリモートコントロールされているようじゃないか。

OK.現在の状況は確認した。

ちょっと思考が脱線するのはお年頃の♂の子(きゃっ♪)ならデフォルトでそうだろう。

姫百合姉妹、向坂姉弟、由真にこのみにまーりゃん先輩、自分の周りにも脱線しまくる人はいる。

ちょっと悲しくなってきた。

では改めて。

テレビまで歩くか、今後のチャンネル変更の可能性も吟味した上で今少しばかりの苦労をしてでもリモコンを取りに行くのか……どちらが得策だろうか。

しかしここで新たな、いや、寧ろ今まで気がつかない振りをしてきた「第三の選択肢」――禁断の果実を思い浮かべた。

いっそテレビにリモートコントロールされるくらいなら、逆にリモコン自体をリモートコントロールできないだろうか? もちろんリモコンの裏をかく形で、だ。

しかしどうやってやれば良い?

どうせ殺るなら(←誤植)一発で確実に仕留めなければならない。

例えばリモコンの将来性も吟味して何か柔らかいものを何度もリモコンに投げるのはどうだろうか。

だめだ、スマートじゃない。それじゃただの道化だ。

ではいっそ銃で撃つのはどうだろうか?リモコンは死ぬ事になるが人類のためだ、やむを得まい。

問題は、今、この瞬間、リモコンが逝く前にきちんとその役目を果たせるかどうか、それだけなのだ。

自分としての結論は出た。手を伸ばせば瑠璃ちゃんのエアガンもある。言っとくがザ・ボス(タマ姉)仕込みの射撃は伊達ではない。

[回想中]

「これから口から音を出す前と後に『サー』と言いなさい。分かった? タカ坊、このみ、雄二」
「サー! 女性は『マァム』であります、サー!」
「口答えはゆるさないわタカ坊。じっくりかわいがってあげる! 泣いたり笑ったり出来なくしあげる
!」

「ダメダメよ雄二。そんなんじゃ神社に行く前に祭りが終わっちゃうわ」

「いいわねタカ坊、このみ、雄二! アナタ達は許可なく失敗することを許されない! 時にタカ坊、アナタは私を愛してる?」
「生涯忠誠! 命懸けて! 闘魂!闘魂!闘魂!」←洗脳済み
「雄二、貴方を育てるものは?」
「美しき姉だ! 姉だ! 姉だ!」←手遅れ
「私たちの目標は何、このみ?」
「屋台! 屋台! 屋台! でありますよ、たいちょー」←素

[回想終了/クロックオーバー]

…………

……



なんか涙出てきた。

とりあえず。

今までに無いほどの冷静さでトリガーに指をかける。が、最後の不安要素が俺を躊躇させた。

―本当に奴は逝く前にその役目を果たすのか?―

そこでひとまずエアガンを降ろした俺は、隣室まで携帯を取りに行き来栖川の物知り博士/珊瑚ゃんに質問してみたのである。

【質問】ねえ珊瑚ちゃん。テレビのリモコンが遠くにあって取りに行くのがバカバカしいんだけど、たとえばリモコンを銃で撃った場合、チャンネルが変わるのが先だと思う? それとも、リモコンが先?

【回答】リモコンを銃で撃つやなんてロックやなぁ。カッコエエで貴明。ウチが知っとるんは来栖川の奴だけやけど、多分反応は貴明が思っている以上に速いねん。せやけどさすがに弾丸の速さに対応出来る程やないと思うわぁ。ごめんな貴明、今度は核戦争にも耐えられる奴作るわ。

拳銃から発射された弾丸はな、大体500m/sのスピードで飛んどるんや。ぴゅーって。まず弾丸がボタンに触れるやろ? リモコン内部に電気的な反応が起こるまでに弾丸は2mm、内部の回路が作動する頃にはすでに4mm食い込んでいるやろなぁ。

まず、弾丸が垂直にボタンを押したとすると、そこからリモコンの回路が信号を伝えた、と同時に弾丸によって回路の基板がダメージを受けるまでの時間は 0.000008秒(0.004/500)、つまり8マイクロセカンドかかる訳や。瞬きよりもはやいんやで。まあ、最近のパソコンなら十分に処理できる時間やな。

やけどな貴明。弾丸を喰らったリモコンはその内部回路が破壊されるまでの間に、情報をテレビに送る為の信号を内部で生成して送信せないかんのや。

ウチやおっちゃんがリモコンの設計でよく使うPhilips/Sony RC5は信号送信を終わらすまで凡そ25マイクロセカンドかかる。やから、信号を送信する前に、リモコンがおしゃかになるんがオチや。おとなしゅうリモコンで操作しとくんがええと思うで。

…………

……



何を言ってるのか理解はできないが、とりあえず納得した俺は黙ってリビングに行った。

クマ吉がワイドショーを見てた。

ちなみに、クマ吉にリモコン持って来てもらえばよかったと気づいたのは夕食後のことである。
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