お化け屋敷パニック 〜ある日の風景 このみ〜
第三回葉鍵板最萌トーナメント出展作品
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 なかなかに盛況な様子をみせている喫茶店ではあるが、シフト制を敷いているため、ノルマが終われば自由に行動できる。俺の担当は開始から11時までと、 15時から終了までなので、今から4時間は、晴天の秋空に恵まれた我が校の文化祭を謳歌できるということだ。
「えーっと、あいつのクラスは……と」
 クラスメイトに作業を引き継いで、晴れて自由の身となった俺が今いるところは、教室棟の1階――要するに1年生のフロアである。今年から同じ学校に入学 してきた幼なじみに、自由時間になったら来るようにと頼まれているのだ。
「確かこのあたり……、っと、あれか?」
 視線の先、あらかじめ聞いていた教室の周りに、小さな列が出来ていた。入り口には黒いカーテンと、受付らしき机。そこに、とりどりの仮装をした生徒が何 人かいる。どうやら、お化け屋敷をやっているようだった。
 ――が
「なんだありゃあ?」
 幾人かのスタッフは、それぞれ幽霊の衣装やら、妖怪の被り物やらの"いかにも"という感じの格好をしていたが、その中にひとり、明らかに場違いなのがい る。
 黒い膝丈スカートのワンピース。そこだけ取れば魔女と言えなくもないが、スカートの裾はフリルで縁どられているし、上に重ねた白いエプロンもこれまたフ リフリ。履いている靴下はニーソックスのようだし、頭には三角帽子ならぬヘッドドレスが乗っている。どこからどう見ても、ステレオタイプなメイドさんだっ た。
「いらっしゃいませぇー。お化け屋敷ですよー、怖いですよー。見てってくださぁ〜い!」
 文化祭の出し物であるお化け屋敷の前で、メイドさんがプラカードを抱えて客引きをしている。全然怖そうに見えない。
 よく見ると、顔にサンマ傷のペイントが施してあったが、あれもなんの冗談なんだろう。まさか恐怖の演出じゃないよな……。おそらくなにか高度なお笑いを 目指 しているんだろうと思うが、いずれにせよお化け屋敷とは関係なさそうだ。
 まぁ、そんなことを考えていても仕方ない。俺は苦笑しつつもそのメイドさんに近寄っていき、おもむろに"ぽんっ"と肩を叩いた。
「よっ、なにやってんだ?」
「え? あっ、タカくん!」
 振り向いたその顔は、よく見知った幼なじみの顔――柚原このみがそこにいた。
「いらっしゃいませ! ちゃんと来てくれたんだね〜」
 俺の顔を認めるやいなや、ぱぁっとこのみの顔に笑みが広がった。ますます怖くない。サンマ傷が妙な形に歪んで、余計に楽しげだ。
「……なぁ、お化け屋敷やってんだよな?」
「うん、そうだよ。ほらほら、怖いでしょ?」
 そう言うと、このみはプラカードを持ったまま両手を上にあげて、「がおーう、がおーう」と、なにかの鳴きまねをした。熊かよ、メイドじゃないのか?
「いや、まったく」
「え、そうかな……」
「そもそもなんでメイド?」
「かなちゃんが、今時はメイドさんで客引きするもんだー、って」
「……そのサンマ傷は?」
「お化け屋敷っぽいからって、ゆっこちゃんが」
「…………」
 かなちゃんとゆっこちゃんというのが誰なんだかわからないが、間違いなくその二人は、この有り様の友人を"怖い"だなんて思ってないだろう。確実に。
――ああ、たぶん、受付でこっちを見ながらニヤニヤしているのが、件の二人だな。どこか、寺女に行ったあの二人に似てる。 この手のタイプに気に入られる なにかを持ってるんだろうな、このみは。
 それにしても、この一学年下の幼なじみが、将来悪い奴に騙されないかが激しく心配 だ。まぁクラスメイトには愛されてるようだけど。
「……やっぱり、ヘン?」
「うーん……、似合ってはいる、と思う」
「ホント? やた〜」
 怖くはないけどな。
「あっ、そうそう、タカくんせっかく来てくれたんだし、見てってくれるでしょ?」
「お化け屋敷にか? どうしようかな……。一人だしなぁ」
 入り口に並んでいるのは、カップルか、そうでなければ、友達同士らしい女の子二人組ばかり。そこに俺だけぽつんと男一人で並んでいる様は、虚しい上にか なり痛いだろう。想像するだに恐ろしい。
「ユウくんは?」
「うちの教室でコーヒー淹れる係」
「あっ、喫茶店なんだっけ。大変そうだね」
「コーヒー淹れるだけだけどな」
「タマお姉ちゃんは?」
「占い小屋で手相見る人やってる。すごい行列だったから、声かけてこなかった」
「うーん、それじゃあ……。えっと、ちょっと待ってて」
 このみはそう言うと、たたっと受付に座っていた女の子のところまで行って、なにやら話し始めた。
 時折、ちらちらとこちらを見ながら、三人でくすくす笑っているのが居心地悪かったが、話はすぐにまとまったらしく、いくらも待たないうちに戻ってくる。
「お待たせ。私と一緒に入っていいって」
「このみと?」
「うん。えへ〜、久しぶりだよね、タカくんとお化け屋敷に入るの」
 言われてみれば、ずいぶんそんなこともなかった。中学校以来だったかな。
 ……いや、そんなことよりスタッフと一緒に入るのかよ。ペアの片っぽがタネを全部知ってるお化け屋敷ってどうなんだ?
 だが、そう聞くより早く、このみは俺の手を取ると、列の後ろまでぐいぐい引っ張っていった。サンマ傷のメイドに連行される男子学生の図というのも珍しい んだろうな。
「ほらほら、早く〜」
「わ、分かったって。分かったからあんまり引っ張るなよ。離してくれ」
「だぁめ。離したら、タカくん逃げちゃうもん」
 俺はどっかの犬か!


     ※


 中に入ると、床に擦るほど長い暗幕と遮光カーテンに区切られた、真っ暗な通路が続いていた。時折きゃあきゃあと女の子の悲鳴が聞こえてくる のが、いかにもといった感じ。どこかから聞こえてくる暗いBGMも、ボリュームが極端に絞られて、かすかにしか聞こえない。また、蛍光塗料だろうか、そこ かしこにおぼろな光を放つペイントが施してあり、それが一層おどろおどろしげな雰囲気を醸し出している。
「ふわ〜……。け、けっこう本格的だね」
 俺の手を握ったまま、このみが小さな声を震わせる。
「そうだな……。って、このみも準備に参加してるんじゃないのか?」
「衣装とかは女の子たちで縫ったりしたけど……、教室のセットを準備したのは、みんな男の子たちだったから。客引きでずっと外にいたし、中は見てなかった もん」
 なるほど……。確かに、全員が同じ仕事をするわけではないから、そういうこともあるか。俺のクラスも、大工仕事は男子がやってたしなぁ。
 でも、中の人全員同 じクラスの奴らなのに、それでも怖いもんなのかね? 女の感覚ってのはよくわからない。
「やだなぁ……なんか出てきそうだよ……」
 そりゃ出てくるだろう……と思った瞬間、物陰からなにかが飛び出してきた。
「ヴァーー!」
「ひゃあっ!」
 かなり気合の入ったメイクのお岩さんだった。驚いたこのみが、悲鳴を上げて俺の腕にしがみついてくる。その様子に満足気な顔でニタリと笑うと、お岩さん はまた物陰に引っ込んでいった。
「あーん、もう、やだぁ。あっち行ってよ〜」
「もう行ったよ」
「ほ、ほんと?」
 あ、よく見たらこのみの奴、目を瞑ってやがる。そこまで怖いのか。
「ホントだって。……あ、でも人魂がまだいるな。このみのこと見てるぞ」
「う、うそだよっ、そんなのホントはいないんでしょ? タカくんのイジワルっ」
 嘘だと言いながらも、目を開けようとしない。相変わらず俺の腕にしがみついて、ぶるぶる震えてやんの。
 ……しかし、なんだな。しがみついてるのがタマ姉とかだと、なにやら柔らかい二つの感触が"これでもかっ"ってくらい伝わってくるんだが、このみの場合 は、なんというかこう、まだまだ子供っていうか……。
 うん、まぁこれは、本人のプライドのためにも黙っておこう。
「ほら、そろそろ行くぞ。後がつかえるし」
「なにもいない?」
「いないって。大丈夫だから、そろそろ目開けろよ」
「う、うん……」
「ヴァーー!」
「ひゃあっ! やだぁ、もうっ!」
 仕事熱心なお岩さんだな。……あ、なんか顔がにやけてる。そうだよな、これだけ怖がってくれれば、さぞ脅かし役冥利につきるだろうなぁ。
「タカくーん……」
「はいはい、大丈夫だから先に進むぞ」
「う〜……。手、離しちゃヤダよ?」
「はいはい」
 離すもなにも、しがみつかれてるんだが。
 ともかく、いつまでも立ち往生してるわけにもいかないので先に進むことにする。
 それにしても、このみの怖がりようときたら痛快だった。道中、こんにゃくやら皿屋敷やら定番の演出が続くが、その度にきゃあきゃあやだやだとこのみが悲 鳴をあげている。いっそ律儀なくらいだ。
「さすがにちょっと、怖がりすぎじゃないか?」
「そんなことないよ。タカくんが怖がらなさすぎなんだよ……」
 ……変わった言い回しする奴だな。
 まぁでも、思い返してみれば、昔からこうだったかもしれない。怪談もホラー映画も嫌がるし、テレビで心霊現象スペシャルが始まるとすぐにチャンネルを替 える。ガキの頃、遊園地のお化け屋敷に入った時も、入り口から出口までずっと、俺にしがみついたまま歩いてたし。
 あるいは、女の子ってのはみんなこういうものなのか? そういえば、外で順番を待っていた時も、先に入った女の子の悲鳴が外まで聞こえてきてたっけ。 ジェットコースターと同じで、怖がること自体を楽しんでいるのかもしれないな。
 ……と、そこまで考えて、俺の心にちょっとした悪戯心が芽生えた。
 怖がることが面白いなら、それに全面協力してやるのが、幼なじみの努めだよな?
 先程からの脅かしのリズムを考えると、次のタイミングまで間があるし……。
 うん、行けるかも。まずは、腕を離してもらわないとな。
「あっ、ちょっと待てこのみ」
「な、なに? なんか変なのいた?」
「いや、靴ひもが解けたから、ちょっと直す。腕離して」
「え、く、靴ひも? うー……、は、早くしてね?」
「分かってるって」
 そう言うと、しぶしぶながらもこのみが腕を解放してくれた。
 くっくっく、素直な幼なじみを持って嬉しいよ、このみ。上履きのスリッパに靴ひもなんかあるわけないだろうに。
 ひとつほくそ笑むと、俺はかがんで靴ひもを直すふりをして、闇にまぎれてこのみから離れる。相変わらず眼を閉じているようで、その動きに気づく様子もな い。
「ねえ、タカくん、まだ……?」
 許せこのみ。俺はな、お前が憎くてしてるんじゃないよ。喜んでほしくてやってるんだ。
 笑いを噛み殺しながら、俺はちょっと先に行った先の壁際に寝転がり、首から上だけ残して、身体を暗幕の下に突っ込んだ。ついでに、暗幕の影に転がってい た、小道具らしき懐中電灯を構える。
 そうして、精一杯低い声で、「このみぃ〜」と呼びかける。うん、我ながら地獄の底から響いてくるかのようだ。
「え……」
「このみぃ〜」
「タカくん……? あ、あれ、どこ? どこに行っちゃったの?」
 俺がいなくなったことに気づいたらしい。……つーか、今までずっと目を閉じてたのか?
「このみぃ〜」
「や、やだ、タカくんイジワルだよ……」
 うろたえた様子の声が聞こえてくる。せいぜい十数歩くらいしか離れてないはずだが、緩やかにカーブする狭い通路のせいで、ここからでは姿は見えない。逆 に言えば、向こうからもこちらは見えていないだろう。ましてや、こっちは床に転がっているんだから。
「ねぇ、どこ……? そっちにいるの?」
「このみぃ〜」
「ね、ねえ、やだよ。怒らないから出てきてよ……」
 ちょっと気の毒な気もしたが、まぁ、年に一度の文化祭だからな。せっかくだし。何がせっかくなのかはわからんが、とにかくせっかくだし。
「助けてぇ〜」
「う……」
 そろりそろりと、このみがこちらに歩いてくる気配。
「このみぃ〜」
「タカくん、どこ……?」
 だんだんと好みの声が近づいてくる気配がしたかと思うと、暗幕の向こうから特徴的なエプロンドレスが出てきたのが夜目に映った。不安そうにきょろきょろ とあたりを見渡しながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
 よし、今だ。
「ここだよぉ〜」
「え……」
 このみがふとこちらを向くと同時に、俺は手に持っていた懐中電灯のスイッチを入れ、暗幕に隠れた首元から顔を照らす。こうすれば、向こうからは、暗闇に 照らされた生首に見えるはずだ。その上で、くるんと白目を向いてみせる。実は完全には白目に出来ない方だが、まぁ、この暗さなら、細かいことは気づかれな いだろ。
「ひっ……!」
 案の定、このみが息を飲む声。成功か?
 と思った矢先、ものすごい悲鳴があたりに響いた。
「いやああああああっ! タカくん、タカくーん!!」
 それと同時にこのみは俺のそばに膝をつき、両手をあわあわさせながら「どうしよう、どうしよう」とうろたえた声をあげている。……しまった、成功しすぎ たか。
 慌てて俺は懐中電灯のスイッチを切って、「なぁんちゃって」ととぼけた声を出してやる。
「ふえ……」
 その声を聞いた瞬間、このみがきょとんとした顔になる。それを確認して、俺はゆっくりと身体を暗幕の下から起こした。
「いや、悪い悪い、ちょっと悪戯してみた。驚いたか?」
「え…、え……?」
 まだピンと来ないのか、目をぱちぱちさせながら、呆けたような顔でこちらを見るばかり。まさかここまで効くとは。
「タカくん……? あ、生きてる……」
「そりゃ生きてるよ。ゴメンな、驚かせて。いや、あんまりこのみが怖がるもんだから、つい」
 そう言いながら、おれはぱたぱたとホコリを払いながら立ち上がり、このみの手をとって立ち上がらせようとする。さすがにそろそろ出ないと、後続が怒り出 すだろう。
 だが、このみは手を引かれて一旦は立ち上がろうとしたものの、すぐにぱたんとその場に膝をついてしまう。
「は……、はふ……」
「お、おいおい、大丈夫か?」
 驚いてこのみの顔をもう一度見ると、くにゃっと力なく笑いながら、目尻に涙を浮かべてこちらを見つめていた。そうして、ゆっくりと口を開いて、「こ、し が……」と震えた声を上げる。
「はい?」
「腰が抜けちゃった……」


     ※


「もうっ、タカくんイジワルすぎ! ホントに心配したんだからね」
 先程からずっと、俺の背中でぷりぷりとメイドさんが怒っていた。"心配した"っつーか、"怖かった"の間違いでは……? と思ったが、それは黙ってお く。
「靴ひも直すだなんて言って、気がついたらいなくなってるし、床に寝転んでるし……。あんまり悪戯ばっかりしてたら、タマお姉ちゃんに言いつけちゃうんだ からね!?」
「はいはい……」
 あの後、歩けなくなったこのみを置いていくわけにもいかないので、おんぶして保健室に連れていくことになった。その間中、すっかりご機嫌斜めになったこ のみの文句をずっと聞かされているのだ。なんとも居心地悪い。
 いや、このみが怒っているのは仕方ないにしても、悪目立ちするのがかなり気まずい。女の子をおぶって歩くなんてただでさえ目立つのに、背中にいるのは、 ほっぺたにサンマ傷を描いたメイドさんだ。おまけにぷんぷん怒っているし、それが余計に好奇の目を引きまくって、居心地悪いなんてもんじゃない。
「だいたいタカくんはいっつもそうなんだもん。失礼しちゃうんだから」
「いや、いつもじゃないだろ。たまにだよ。今日は文化祭だったし、ちょっと羽目を外しすぎてだな……」
「あれは3年前の夏休みのことでありました……」
「待て、こんなところで昔話を始めるな」
「タカくんの家と私の家、みんなでキャンプに行った夜、おトイレに一緒についてきてもらったのであります。そしたら……」
「わかったわかった、悪かったよ。今も昔も俺が悪かったから、機嫌直してくれ」
「反省してる?」
「してますしてます。もう大反省」
「うー、なんか嘘っぽい。これはやっぱり、タマお姉ちゃんにお急を据えてもらわないとダメでありますよ」
「だからごめんってば。間違ってもタマ姉はやめてくれ。命に関わる。お詫びに、文化祭の間は、なんでも言うこと聞いてやるから」
「ホントに?」
「ホントホント」
「やた〜」
 とたんに、背中の上で歓声が上がる。先程の恨めしげな声とはえらい違いだ。
「じゃあねえ、クレープおごってくれる?」
「はいはい」
「あと、たこ焼きも」
「うん」
「空いてる時間は、ずっと私と一緒に文化祭回ってね」
「了解」
「明日の午後からの演劇の出し物も」
「わかったわかった」
「それから、毎週日曜日には遊びに連れていくこと」
「……うん?」
「毎日おやすみ前にメールしてね」
「……文化祭関係なくね?」
「それから……」
「おいおい、いくつあるんだよ」
「だって、なんでも言うこと聞いてくれるって言ったも〜ん」
「多いって」
 思わず笑ってしまう。
「そのくらい怒ってるんだも〜ん。イジワルタカくんのせいで、このみのピュアハートはギザギザなんだから」
「そりゃ大変だ」
「でも……」
 その時、俺達とすれ違いに、騒がしい着ぐるみの一団が駆け抜けていった。どこかのクラスの客引きだろうか、元気な声があたりに響く。その声に重なって、 このみが何事か俺の背中でつぶやいた。
「タカくん背中、広いし、あったかいから……。ちょっと嬉しいかも……」
 だが、その声は喧騒にまぎれて廊下に舞うばかり。ただ、先程より少し力を抜いたのか、肩口にこのみが頬を載せた感触が伝わってきた。
「悪い、なんだって?」
「うん……?」
「周りが騒がしくて。ちょっと聞こえなかった」
「えへへ……、なんでもなーい。それより、まずはクレープおごってね。確か、校庭で売ってたよ」
「え? ああ……。保健室は?」
「だいじょぶだいじょぶ」
「じゃあ歩けよ」
「ダメ〜」
「やれやれ……」
 どうやら俺の意見は全部却下らしい。今日はとことん付き合わされそうだ。相変わらず、周りは俺達を見ながら、なにか平和なものでも見るかのようにくすく す笑っている。そこらへんは、もう諦めるべきなんだろうな。
 とはいえ、まぁ、せっかくの文化祭だ。たまには思いっきりこのみを甘やかしてもいいかもしれない。
「わかりましたよ。じゃあ、クレープ食べに行きましょうかね」
「うん!」
 いらえの声は、いつものこのみの元気な声。
 その声にひとつほっとすると、俺は文化祭の喧騒ひしめく校舎の中、メイド姿のお姫様をおぶりながら、ゆっくりと歩いていった。


――――――――――――――おわり

 (初出:2010年10月28日)

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