ひだまりのなかで act.3
★人間が猫を飼っている? そう思っているのは、たぶん人間だけだ★
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 今日はりつこちゃんのはなしをしてあげる。りつこちゃんは、しょうがくせいなんだよ。だから、まいにちまいにち赤いカバンをしょって、がっこうにいく。帰ってくると、まずおかーさんに「きょうのごはんなぁに?」ってきいて、それからおへやに入って、あそびにいったり本をよんだり、いまでテレビを見たりする。ときどき、おともだちの、あさみやゆうきちゃんをつれてきてあそぶ。りつこちゃんはやさしくて、ボクにおやつをたくさんくれる。からだも、いちばんよくなでてくれる。そして、とっても元気。いつもぴょんぴょんはねまわってるみたいで、見ていて楽しい。

 でも、こないだから、りつこちゃんの様子がおかしい。帰ってきては、へやにこもって、おかーさんみたいに「ふーっ」ってため息をつく。つくえにつっぷして、うんうんうなる。ごはんのりょうも前より少なくなったから、おなかがいたいのかな?ってさいしょは思ったけど、そうでもないみたい。ひきだしから、写真を出してじっと見ているのをのぞき見たら、男の子が写っていたから。

 それからしばらくたった日曜日。ゆうきちゃんとあそびに行ったりつこちゃんが、まだ夕方になってないのに帰ってきた。おかーさんが「おかえりなさいは?」っていっても何もへんじをしないで、へやにかけこんだ。どうしたのかなって思って、ドアのすきまからへやに入ったら、りつこちゃんがベッドの上でうつぶせになって泣いている。そして、泣きながらつくえのひきだしをあけて、あの男の子の写真をやぶいた。ああ、ダメだったんだな、って思っていたら、りつこちゃんがボクをぎゅってだいて、またわんわん泣きだした。りつこちゃんがこんなに大声をあげて泣くのを、ボクは初めて見る。にんげんって、こんなふうに泣くんだな、って思った。それから、りつこちゃんはボクをだきながらベッドにたおれこんで、しばらくわんわん声をあげていたあと、つかれたのか眠りこんだ。たいじゅうがかかって重かったので、ボクはうでからぬけだして、そばのあいているばしょに丸くなった。おひさまの光がまどからさしこんで、りつこちゃんをてらしているのが見える。さんざん泣いたなみだのあとが、ほっぺにはっきりのこっているのも。

 ――あたたかいおひさまの光が、ベッドをてらす。その上に丸くなるボクも、泣きつかれて眠るりつこちゃんも、つつみこんで。おきた時、りつこちゃんは何をおもうだろう? あの男の子をおもいだして、また泣く?それとも、おかーさんが作っているらしいシチューのにおいにつられて、おなかがすいたことにおもいいたる? そんなボクの思いにきづかず、りつこちゃんはねいきをたてる。そう、いまはゆっくりお眠り。目がさめたら、また泣いてもいいから、今はゆっくりお眠り。かなしいことも、たのしいことも、つらいことも、うれしいことも、みんなわすれて、今だけはゆっくりと、このひだまりのなかで。だいじょうぶ、ボクはここにいる。キミの横にいるよ。これまでも、これからも、ずっとかわらず、このひだまりのなかで。いつも、いつでも、この、ひだまりのなかで――

 ――――――――――――おわり
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