エンタテインメントの極地
何よりも重要なのは『面白さ』。芳醇なエンタテインメントの味わいを。
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タイトル 著者名 出版社
大誘拐 天藤真 東京創元社
妖異金瓶梅 山田風太郎 廣済堂出版
七回死んだ男 西澤保彦 講談社
『吾輩は猫である』殺人事件 奥泉光 新潮社
嗤う伊右衛門 京極夏彦 中央公論新社
六番目の小夜子 恩田陸 新潮社
依存 西澤保彦 幻冬舎


ミステリーマニアとしては、『遠きに目ありて』を推すべきかもしれませんが、読み物としてはこちらの方が面白い。すでに古典になりつつある本作ですが、この無類の面白さは古典とか新刊とかの枠組みを越えて、無条件に楽しめます。ユーモアたっぷり、着想は秀逸、ホロリとさせる要素も完備して、天藤真があなたに送る一大絵巻。エンタテインメントはこうでなくっちゃね。


あらすじ:三度目の刑務所生活で、スリ師戸並健次は思案に暮れた。しのぎ稼業から足を洗い社会復帰を果たすには元手が要る、そのためには…早い話が誘拐、身代金しかない。雑居房で知り合った秋葉正義、三宅平太を仲間に、準備万端調えて現地入り。狙うは日本有数の資産家、柳川家の当主・とし! しかし、無事にとしを誘拐した三人組の前には、夢にも思わなかった苦難の道のりが用意されていた。他ならぬ、としの手によって…。三人組と、とし。四人が歩く熱い日々の果てに待つ結末やいかに?


日本が誇る稀代のストーリーテラー、山田風太郎の異色好色短編集。エロい金瓶梅に、猟奇的要素を盛り込んで、ミステリー仕立てにしたところ、どうにもこうにもとんでもない作品ができちまったなぁ、と、そんな作品。藩金漣に代表される女たちの情念が作品全体に横溢し、読んでいて身震いを禁じえません。版元がマイナーなので入手困難なのがイタいところ。


あらすじ:中国山東省清河県随一の豪商・西門家。大好色漢の当主・西門慶をとりまく8人の妻妾達の嫉妬とプライド。使用人達の仲で繰り広げられる軋轢と葛藤。そして起こる残酷な怪死事件…。大混乱の中、当主の友人でたいこ持ちの応伯爵だけが、ひとり冷静に意外な犯人と異様な動機を見破るが、己の胸にしまいこみ口を閉ざし続ける。その裏には、ひとりの妖異なる女の影が…。


SF設定を盛り込んだ反則スレスレのミステリーを書き続ける異端の作家・西澤保彦のスマッシュヒット。とりあえずミステリーを抜きにしても、そのカッ飛んだストーリーは快哉モノ。加えて、グレイトすぎたどんでん返しは、その是非を問う前に読者を唖然とさせます。古今無双の独自世界を堪能ください。『依存』と同じ作者とは到底思えない…。


あらすじ:同じ1日を9回も繰り返してしまうと言う「特異体質」を持つ大庭久太郎が、毎年恒例となっている、祖父主催の新年会に招かれて、渕上家を訪れた。だが、その席上、当主・渕上零治郎が「今夜書く遺言状に自分の跡取りとする者の名を書く」と宣言したことから、遺産相続を巡る不穏な空気が漂い始める。零治郎が築き上げた莫大な遺産は、果たして誰の手に渡るのか? しかし、遺言状がふとした手違いで書かれなかった上に、なんと零治郎が殺害されるという事件が発生する。加えて、久太郎の特異体質「時間の反復落とし穴」がよりによってその日に発揮され、零治郎が殺害される1日が何度も何度も繰り返されることになってしまう。「落とし穴」をただ一人認識できる久太郎は、祖父を救うべく孤軍奮闘の1日を繰り返すが…。


ご存知夏目漱石の代表作『吾輩は猫である』の後日談の位置づけとなる本作。文体模写も巧みで、漱石の雰囲気ばっちりです。しかし、そうであるにもかかわらず、物語はロックンロールしちゃってます。もはや作者が悪酔いしていたとしか思えない、トンでる設定。やりたい放題の展開に、目が点になる結末。どこが『吾輩は猫である』やねん!でも面白いんだな。ミステリーの可能性、エンタテインメントの可能性、それらが融合した時、既存の純文学如きでは到達出来ない高みに、小説は駆け上がる。ま、難しいことは抜きにして、とりあえず「我輩」の活躍をどうぞ。


あらすじ:「我輩」が目を覚ました時、どういうわけかそこは蒸気船の中だった。行き着いた先は、苦沙弥先生宅はおろか日本ですらない、なんと上海! 混乱しながらも、上海で生活を始める「我輩」だったが、ある日、とあるアパートのゴミ捨て場で日本の古新聞を見つける。そこに書かれていた「珍野苦沙弥氏殺害さる」の文字! 元飼い主を殺害したのは、はたして誰なのか。さまざまな猫たちの協力を得て、捜査を進める「我輩」だが、事件の背後には、誰も予想し得なかった驚愕のストーリーが隠されていた!


ミステリーじゃないんですが、その要素はふんだんに盛り込まれた、四谷怪談の現代解釈譚。後に『巷説百物語』で探偵役となる、小股潜りの又市の初登場作品でもあります。京極夏彦独特の文体で描かれる物語は、中盤から終盤にかけて描かれる悲劇を越えて、ラストに至り、静謐な悲しみを読者の胸のうちに呼び起こします。プロットや着想だけではない、京極夏彦の真髄を世に見せつけた名作。


あらすじ:小股潜りの又市は、足力按摩の宅悦に、民谷又左衛門の娘、岩の仲人口を頼まれる。娘を手ごめにされた薬種問屋の依頼を受け、御先手組与力の伊東喜兵衛に直談判した際、窮地に立たされた又市らを救ったのが又左衛門だった。不慮の事故で隠居を余儀なくされた又左衛門は、家名断絶の危機にあるというのだ。しかし、疱瘡(ほうそう)を患う岩の顔は崩れ、髪も抜け落ち、腰も曲がるほど醜くなっていた。又市は、喜兵衛の1件で助っ人を頼んだ浪人、境野伊右衛門を民谷家の婿に斡旋するが…。


こちらも映像化された作品なので、知っている方も多いんでは。ミステリー、ホラー、青春小説の味わいが一冊のうちに盛り込まれた、なんとも贅沢な作品。ちなみに、作者の恩田陸さん、こんなペンネームですが、実際は優しげな面立ちの女流作家です。


あらすじ:ある学校の生徒たちの間で密かに伝えられている、奇妙な行事、「サヨコ」。ルールはただひとつ――「サヨコに指名された者は、始業式の朝、自分の教室に赤い花束を飾り、そしてその日からの1年間、誰にも自分がサヨコであることを悟られてはいけない」――。3年に1回行われる、この密かなゲームも、今回で6回目になる。だが、「六番目のサヨコの年」と言われたその年の始業式、どういう偶然か、津村小夜子という名の女の子が学校に転校して来て ――。


『念力密室!』に代表される、SFミステリーを得意とする作者のもうひとつの顔。いわゆる「普通」の本格ミステリーシリーズである『匠千暁』シリーズの分岐点であり、最高傑作がこれ。とにかく暗い。ひたすら暗い。読んでいて手首でも切りたくなるような、ヒリヒリする作品。タイトルの『依存』が示すものは何か? 読者の眼前に突きつけられた現実という名のナイフが、容赦なく胸元をえぐります。覚悟なしでは読めない作品。


あらすじ:世も更けたころ、そぼ降る小雨の中――白井教授宅のパティオの中、二人の人影を見つけた羽迫由起子。影は由起子のよく知る人物、匠千暁と高瀬千帆。何かに導かれるかのように、そっと忍び足で彼らに近づいていった由起子の耳に、信じられない言葉が入ってきた。「僕には双子の兄がいた。兄は実の母に、僕の母に殺されたんだ――」。匠千暁の口から発せられたその言葉。それが、由起子にとって生涯忘れられぬ朝の、あまりにも残酷な朝の始まりだった ――。

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