読者への挑戦状
『騙し』の真骨頂はここにあり。作者と読者の真剣勝負!
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タイトル 著者名 出版社
双頭の悪魔 有栖川有栖 東京創元社
二の悲劇 法月綸太郎 祥伝社
どちらかが彼女を殺した 東野圭吾 講談社
盤上の敵 北村薫 講談社
どんどん橋、落ちた 綾辻行人 講談社
生存者、一名 歌野晶午 詳伝社


ミステリーの醍醐味を、謎を解きほぐす「論理」に見出すならば、この作品に並ぶ物は他にないといって良い。和製クイーン・有栖川有栖の最高傑作にして、国産ロジカルミステリーの頂点に位置する大傑作。合計三度挿入される「読者への挑戦」が、嫌が応にも読み手のテンションを上げる。ちなみに…筆者は最後まで判りませんでした。


あらすじ:外界との接触を嫌う芸術家たちの村・木更村に迷い込んだ娘の麻里亜を連れ戻して欲しい…。麻里亜の父、有馬竜三から頼まれた有栖川有栖たち英都大学推理小説研究会のメンバーは、仲間を救援するべく、要請に応えて木更村へ向かう。だが、村の警戒は想像以上に厳しく、嵐のさなか、部長である江神二郎がかろうじて潜入に成功したものの、村と外界を繋ぐ橋が濁流に飲まれて破壊され、江神部長と有栖たちは川の両側に分断されてしまう。そして、その双方に殺人者の魔手が忍び寄る…。


法月綸太郎といえば、有栖川有栖に並ぶ和製クイーンとして、ロジカルなミステリーにその手腕を発揮する作家。しかし、時にはこんな切ない話も書くのです。なかなかお目にかかれない、二人称叙述という文体で描かれる物語は、ユーミンの『卒業写真』の調べにのって、悲劇の結末へと歩いていく。加えて、法月ならではの、大胆不敵な騙しの仕掛けもやはり健在。一粒で何度も美味しい、恋愛ミステリーの傑作。



あらすじ:東京世田谷でOLが殺されて顔を焼かれ、ルームメイトが重要参考人として手配された。事件は三角関係のもつれによる単純な怨恨殺人と見られたが、ただ一点、被害者の飲み込んでいた小さな鍵が謎とされた。しかし、その後容疑者の死体が京都蹴上の浄水場で発見され、惨劇の舞台は一転、西へ飛ぶ。自殺か? 他殺か? 失われた日記に記された、京都=東京を結ぶ愛と殺意の構図に、作家にして名探偵・法月綸太郎が挑む。


『秘密』や『白夜行』で、ミステリー読まない人にも有名な東野圭吾。しかし、ミステリーファンにしてみれば、やはり彼は本格ミステリーの作家。それも、ストライクゾーンギリギリに投げ込まれる、キレのある変化球こそが醍醐味なのであります。その東野が、珍しく直球勝負で読者に挑んだのがこの作品。手がかりはもちろんすべて公開。反則のどんでん返しは一切ナシ。容疑者はたったの二人…。読了後、必ず誰かと真相について語り合いたくなること請け合いです。


あらすじ:自殺の偽装を施され、最愛の妹を殺害された愛知県警豊橋署に勤務する和泉康正は、現場検証の結果二人の容疑者を搾り出す。ひとりは妹の親友、もう一人はかつての恋人。康正は復讐のために懸命に真犯人に肉迫するが、その前に練馬署の加賀刑事が立ちはだかる。二人の警察官の激しい推理の攻防の末に、ついに現れる真相。犯人ははたして、どちらなのか?


北村薫といえば『円紫師匠と私』シリーズや、『覆面作家』シリーズなどの、いわゆる『日常系ミステリー』の先駆者ですが、彼の真髄は優しい物語そのものにはなく、むしろ、この作品で顕著に表れている、その老獪なテクニックにこそあるんだと思う。我孫子武丸をして「恐るべきマニア」と言わしめた北村の超絶技巧。その匠の技と、北村ならではの小説力が融合した時、既存の文学では見えなかった『人間』の本質が描き出される。これぞ、20世紀本格ミステリーだけが到達した、文学の極点です。



あらすじ:我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、公然の密室と化したマイホーム。末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。「これからやるのがチェスだとすれば、まず駒組みを完成させなければならない。借り物は、すんだ。つまり、陣形は整った、というところか。だが、準備完了というわけではない。その前に、最も重要な大駒の配置をする必要がある。それが無理なら、この勝負は最初から投げ出すしかないのだ」…。チェックメイトの一手は、純一か?犯人か?


新本格第一世代の第一走者にして、いまなお越えるもののない高峰・綾辻行人。幻想と論理の融合する、独自の世界観で謎物語を描き続ける著者が、『騙し』に全ての力を注いだ結果生まれたのが、この異形の短編集。パズラーミステリーの頂点、あるいは極点。この書を読まずして、ミステリーを語るなかれ。さあ、異世界の扉が開く。もう、後には引き返せない…。


あらすじ:書き下ろし長編の締め切り迫った大晦日、心身ともに疲れきった僕――綾辻行人の前に「Uです」と名乗る長髪の青年が現われた。ミステリーを書いてみたというその青年は、僕に原稿を差し出して読んでくれと頼んでくる。かなり自信ありげなその犯人当て小説に目を通した僕だったが、素人作品とは思えないほどに手ごわい代物だった。お手上げで解決編を聞いた僕だったが、しかし、その解決の内容は…。(第1話『どんどん橋、落ちた』)


祥伝社が数年前に展開していた文庫シリーズ『400円文庫』の第1回配本の内の一冊。150枚程度の中篇ですが、そこは島田門下生筆頭・歌野晶午のこと、破壊力は抜群です。『葉桜の季節に君を想うということ』で一躍ブレイクした歌野ですが、この作品は、知らない人も多いんでは。見かけたらぜひ手にとってどうぞ。短い中に、歌野の魅力がぎっしり詰まってます。


あらすじ:真の道福音教会の信者6人は、都内で爆弾テロを起こした後、ほとぼりが冷めるまで潜伏するために、鹿児島の遥か沖の孤島『屍島』に降り立った。だが、翌日幹部の1人が船とともに姿を消し、彼らは絶海の孤島に、文字通り取り残されてしまう。組織に対する疑心と食料を巡るいさかいの中で、1人、また1人と仲間が殺されていく。サバイバルゲーム場と化した島の中で、最後まで生き残る者ははたして!?

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