『タマゴサンド』:ToHeart2コミックアンソロジー(一迅社)
あらすじ…
帰り道、るーこのあとをコソコソと付いてまわる笹森花梨。
宇宙人といううわさの彼女を観察していたが、下手な尾行はるーこにはバレバレで…。
レビュー…
笹森会長の話というより、会長をアクセントにしたるーこの話。
ストライク平助氏に限らず、会長とるーこの組み合わせはよく見かけるが、それら多くが、両者の一方通行的な個性のぶつけ合いに終始する中、ストライク平助氏のそれは、両者がそれなりに意思の疎通を図ろうと努力する描写が多い。
さて、本作ではタイトルどおり、タマゴサンドが二人の間に交わされるアイテムとなるが、両者の間で交換された真に重要なものはそれではない、と筆者は考える。
作中、るーこは自分を尾行し、盗み聞きを働いた会長に対して怒りを表すが、タマゴサンドを受け取ったあとに一度とがめた後、すぐにその罪を許しているばかりか、るーこにとってはそれなりに貴重なはずの"ちー"を一本、対価として会長に差し出している。
族長の娘として、礼儀には人一倍厳しいはずのるーこにしてみれば…ましてや、不愉快な行為を受けた後だということを考えれば、破格のお返しであると考えられる。
それはなぜか?
ちょうどお腹が空いていたことも理由としてあるかもしれないが、それよりもむしろ、自分について興味を抱いている、あるいは好意を抱いていると考えられる、笹森会長の行動に対し、るーこなりに喜んでいたのではないかと思うのだ。
基本的に、るーこという存在は"気にされない"ことを根拠として周囲に溶け込んでいる。
彼女の奇矯な行動が周囲から見咎められない理由がそこにあることは本編で説明されているが、しかし、その立脚点は、周囲からの孤立という要素を多分に孕む。
後に友人となるこのみ・環・雄二にしても、それは貴明を中継点とした間接的な友情であり、対るーこ個人として成立した友情とは言いがたい。
そう考えると、貴明を間に介していない(少なくともるーこ視点においてはそう観察される)笹森会長の接近は、るーこにとってはなかなかに新鮮なものであ
り、また、自分という個に対しての厚意、あるいは好意が純粋に嬉しかったのだろうことが、この点から想像される。
受け取ったタマゴサンドにるーこが見出したのは、異質な存在たる自分へと向けられた、笹森会長の心。
別れ際の「うーの優しさに免じて…」という言葉がそれを表している。
そして、それが、対象に対して排他的な感情をもっていない――興味の対象として観察はしても、異質な存在としての排除という思考が端からない――笹森会長の度量の広さが前提としてあったからこそのものであることは言うまでもない。
無論、ここでの会長はるーこに対し、観察対象という以上の感情を抱いているわけではないから、実際にはタマゴサンドの上には会長の友愛は乗っていないし、るーこからもらった"ちー"に込められた意味にも会長は気づいてはいないだろう。
コミュニケーションが微妙にすれ違っていることは、火を見るより明らかだ。
だが、それでも…
ひょっとしたら襲われるかもしれないという不安よりも、個としての接近を望んだ笹森会長の心と、差し出されたタマゴサンドに親愛の情を見出したるーこの心。
二人の平和で素朴なやり取りは、これからの二人のヘンテコな関係を示唆しているようで、読んでいて実に微笑ましく、温かい。
タマゴサンドを介して二人の間に交わされた真に重要なもの、それは、きっと、これから生まれ、そして続いていくであろう、長い長い友情のメロディ、その序曲に他ならない。
作者の粋なはからいが光る、秀作短編であると言えるだろう。
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