笹森会長アンソロ作品レビュー 〜ストライク平助編〜
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以下に展開される「アンソロコミックにおける笹森会長作品レビュー」と、それから別ページの「笹森花梨名迷台詞集」は、ずっと前に、2ch BBSPINKのLeaf・key、通称「葉鍵板」内のスレッド「】(゚w゚)笹森花梨〜第21回定例部会〜(゚w゚)」("】"は誤植ではありません)において、言うなれば「連載」したシリーズです。
この間まで、これをGooブログに移植しておいたのですが、ブログ特有のファインダビリティの悪さにより、正直なところ、閲覧者が多かったとは言えませ ん。せっかく書いたのに埋もれてしまってはもったいないので、Webサイトベースに移し替えたのがこのページです。
一人でも多くの方に、彼女の魅力が伝われば、書き手としてそれ以上幸せなことはありません。

なお、現在のところ、他キャラのまとめはありません。正直なところ、タマ数の少ない笹森会長作品だったからこそ、こういうものを書けたと言っていいほど で…。だって、タマお姉ちゃんとかこのみんとかいいんちょとか、数が多すぎてまとめきれないっスよ…。あしからず、ですの。
 




『タマゴサンド』:ToHeart2コミックアンソロジー(一迅社)

あらすじ…
帰り道、るーこのあとをコソコソと付いてまわる笹森花梨。
宇宙人といううわさの彼女を観察していたが、下手な尾行はるーこにはバレバレで…。

レビュー…
笹森会長の話というより、会長をアクセントにしたるーこの話。
ストライク平助氏に限らず、会長とるーこの組み合わせはよく見かけるが、それら多くが、両者の一方通行的な個性のぶつけ合いに終始する中、ストライク平助氏のそれは、両者がそれなりに意思の疎通を図ろうと努力する描写が多い。

さて、本作ではタイトルどおり、タマゴサンドが二人の間に交わされるアイテムとなるが、両者の間で交換された真に重要なものはそれではない、と筆者は考える。
作中、るーこは自分を尾行し、盗み聞きを働いた会長に対して怒りを表すが、タマゴサンドを受け取ったあとに一度とがめた後、すぐにその罪を許しているばかりか、るーこにとってはそれなりに貴重なはずの"ちー"を一本、対価として会長に差し出している。
族長の娘として、礼儀には人一倍厳しいはずのるーこにしてみれば…ましてや、不愉快な行為を受けた後だということを考えれば、破格のお返しであると考えられる。

それはなぜか?

ちょうどお腹が空いていたことも理由としてあるかもしれないが、それよりもむしろ、自分について興味を抱いている、あるいは好意を抱いていると考えられる、笹森会長の行動に対し、るーこなりに喜んでいたのではないかと思うのだ。
基本的に、るーこという存在は"気にされない"ことを根拠として周囲に溶け込んでいる。
彼女の奇矯な行動が周囲から見咎められない理由がそこにあることは本編で説明されているが、しかし、その立脚点は、周囲からの孤立という要素を多分に孕む。
後に友人となるこのみ・環・雄二にしても、それは貴明を中継点とした間接的な友情であり、対るーこ個人として成立した友情とは言いがたい。

そう考えると、貴明を間に介していない(少なくともるーこ視点においてはそう観察される)笹森会長の接近は、るーこにとってはなかなかに新鮮なものであ り、また、自分という個に対しての厚意、あるいは好意が純粋に嬉しかったのだろうことが、この点から想像される。

受け取ったタマゴサンドにるーこが見出したのは、異質な存在たる自分へと向けられた、笹森会長の心。
別れ際の「うーの優しさに免じて…」という言葉がそれを表している。
そして、それが、対象に対して排他的な感情をもっていない――興味の対象として観察はしても、異質な存在としての排除という思考が端からない――笹森会長の度量の広さが前提としてあったからこそのものであることは言うまでもない。

無論、ここでの会長はるーこに対し、観察対象という以上の感情を抱いているわけではないから、実際にはタマゴサンドの上には会長の友愛は乗っていないし、るーこからもらった"ちー"に込められた意味にも会長は気づいてはいないだろう。
コミュニケーションが微妙にすれ違っていることは、火を見るより明らかだ。
だが、それでも…
ひょっとしたら襲われるかもしれないという不安よりも、個としての接近を望んだ笹森会長の心と、差し出されたタマゴサンドに親愛の情を見出したるーこの心。
二人の平和で素朴なやり取りは、これからの二人のヘンテコな関係を示唆しているようで、読んでいて実に微笑ましく、温かい。
タマゴサンドを介して二人の間に交わされた真に重要なもの、それは、きっと、これから生まれ、そして続いていくであろう、長い長い友情のメロディ、その序曲に他ならない。

作者の粋なはからいが光る、秀作短編であると言えるだろう。

『たまご色タイフーン』ToHeart2コミックアンソロジー VOL.4(一迅社)

あらすじ…
今日も今日とてクラブ活動に励む笹森花梨と河野貴明。学校の裏庭でUMAを見たという噂の真相を確かめに、早速現場に向かった二人だったが…。

レビュー…
前作『タマゴサンド』に比して、こちらは笹森会長の元気のよさと小悪魔性を前面にアピールした作品。
引き続きるーこが登場していていて場をかき回したり、腰が引け気味の貴明を引っ張りまわしたりと、小気味良いテンポで話が進む。
他作家に比して比較的メッセージ性の強い笹森会長作品を並べている作者には珍しく、純粋に肩の力を抜いて楽しめる一作。 はじけるような笑顔が眩しい♪

『好きという不思議』 ToHeart2コミックアンソロジー VOL.6(一迅社)

あらすじ…
貴明と二人、幸せに包まれた毎日を過ごしていた笹森花梨。心の中は、好きという言葉でいっぱいの日々。
そんなある日、花梨は他の女の子と一緒に手を繋いで歩く貴明を見かける…。

レビュー…
登場人物が相変わらず花梨・貴明・るーこの3人のみというのも徹底しているが、何より特徴的なのは、失恋を軸にしたそのストーリー。
会長作品は数あれど、失恋をモチーフにして会長を描いたのは、後にも先にもストライク平助氏ただ一人だと思われる。

さて、本作の前半部では、会長と貴明の、青春真っ只中というような描写がこれでもかとばかりに徹底して描かれる。
部活動を渋る貴明を泣き落としてみたり、「だ〜れだ?」のイタズラで逆に自分が恥ずかしくなってみたり、奪ったタマゴサンドを大事大事で食べたりと、会長ファンが萌え死ぬようなエピソードのオンパレード。
そのため、今回も前作『たまご色タイフーン』テイストの話に終始するのかと思わせられるが、作者の筆は折り返し地点にいたって突然、掌を返したかのように、るーこと貴明が付き合っていることを示す場面を描く。

結局、会長はるーこと貴明の仲を邪魔することなく、悲しみを胸の奥に隠して、笑顔で二人を祝福するのだが、しかし、前半での幸福度の高さと後半での失恋描 写とのギャップゆえに、終盤における会長の表情一つ一つは、思う以上の切ない意味を持って読者に訴えかける。
驚いた表情、寂しげな表情、無理して笑っている表情、そのどれもが、笹森花梨という少女の内面を映し出す鏡となり、読む者の内に、彼女の悲しみや葛藤を鮮やかに呼び起こすのだ。

だが、本作で何より秀逸なのは、笹森会長の心の動きを、彼女がいつも探し回っている「不思議」に重ね合わせて描写している所だろう。
好きな人と一緒にいること、ドキドキすること、わくわくすること、いつもより甘く感じるタマゴサンドの味も含めて、「好き」という感情から溢れ出る幸せの不思議。 そして、深く胸を刺す、悲しみの不思議…。 それらみんなひっくるめ、彼女は自分の内に"不思議"を取り込んでゆく。
自分の知らないこと、見たことのないもの、感じたことのないもの…。幸せの不思議も、悲しみの不思議も、温かさも冷たさも、何もかもを己の糧として享受し、胸が痛む今日という日の上に立って、明日を目指して歩いていく。
悲しみの雨が、いつか幸せの花の芽を息吹かせる恵みの水であることを、彼女は知っているのだろう。

ラストのモノローグで語られた「まだまだこの世は 不思議なことであふれてる」という言葉。
この言葉は、未知なるものにより構成された森羅万象への賛歌であり、彼女が心の底から、この世界を愛している事の証左でもあり、生きるという事が例えようもなく楽しいことの連鎖であることを示す、読み手へのメッセージでもある。

僅かなページ数の中に深い世界観が刻まれた、文句なしの傑作であろう。 このような読み味のストーリーは、なかなか出会えるものではない。
本作を描かれたストライク平助氏には、深く感謝の意を表したいと思う。

『こいびとどうし』 ToHeart2コミックアンソロジー VOL.7(一迅社)

レビュー…
恋人になるまで、それを書いた作品は、ToHeart2アンソロに限らずとても多い。
しかし、恋人になったあと…、その後の二人の心の葛藤を追った作品は、ToHeart2アンソロに限らずとても少ない。
本作は、笹森会長と貴明が恋人になったあと、そのあとの二人の恋愛模様を描いた稀有な作品である。

物語は、「笹森さんと俺は恋人同士だ」というラブラブモノローグで幕を開ける。
しかし、笑顔の会長とは裏腹に、貴明の表情はさえず、次ページに至っていきなり「俺はこの子のことを本当に好きなのだろうか?」という懐疑モノローグ。
さらにページをめくれば別れ話と、話が進むにつれてどんどんと不穏な空気が漂ってくる。

しかし、ここで作者が描いているのは、紛れもない「普通の恋愛模様」に他ならない。
考えてみれば、付き合いはじめから永遠に続く平和な関係などこの世にはありえない。あったとしたら、それはどこかに偽りの介在する、薄っぺらな関係だと断言して良いだろう。

人が人と付き合えば、そこには価値観の相違が生まれ、そこから、懐疑、嫉妬、憎悪、嫌気、怠惰、悲哀、倦怠といった負の感情が湧き出てくる。
それをぶつけ、時にはののしりあい、時には傷つけあい、時には互いの顔も見ないほどにケンカする。別れ話だって切り出すこともあるだろう。それは、悲しいほどに、人間が持つ性質に他ならない。

しかし、そんな中で…
互いの心を知り、互いの弱さを知り、互いの優しさを見つけあうことが出来るのも、それもまた、人間の持つ性質に他ならないのだ。

傷つけた心に癒しを、罵った言葉に謝罪を、ぶつけ合った感情に許しを与えながら、恋人たちは日常に回帰していく。
本作の貴明と会長もまた、ひとつの困難を経て絆を深めた、紛れもない恋人同士なのだ。

そしてもう一つ、作者が巻末で言及している通り、本作で外すことの出来ないポジションにいるのが柚原このみ嬢である。
彼女は、前半の別れ話の部分と、後半の仲直りの部分の間……すなわち、貴明と会長の心の溝の間に立ち、両者を接続する連結器の役割を果たす。
彼女がそこにいなければ、おそらく貴明は笹森会長とすれちがったまま、自分の中の違和感を押し込めて、向き合うべき心の闇と光から逃げ出していただろう。
だが、それよりも忘れてはならないのが、彼女が誰よりも貴明の近くに居続け、貴明を想っていたであろうその事実である。

たえない笑顔を貴明に向けながら、「ちゃんと話し合った方がいいよ」と、貴明を『ささもりさん』のもとへと向かわせるこのみ。
そんなことを言わずに、何も気づかないフリをして黙っていれば、貴明は彼女のものになったかもしれないのに、このみはそれをしない。
いつもの、陽だまりのような笑顔を貴明に向けて、幼馴染の幸せを願う。
きっと、家に帰って部屋に独りになれば、涙を零して泣くであろうに、彼女はそれでも、ずっと一緒に居た好きな人の幸せだけを、心に願った。

そこにあるのは、誰かが誰かを想うことの優しさ。
自分への見返りよりも、誰かの幸せを願うことの出来る、人間だけが持つ温かさ。

本作の真の主役は笹森会長でもなく、貴明でもなく、陽だまりと桜の花に祝福された少女、柚原このみなのだ。

『宇宙人に罪悪感』 ToHeart2コミックアンソロジー VOL.8(一迅社)

あらすじ…
自称「宇宙人」のるーこに興味津々の笹森花梨。
しかし、彼氏の貴明に頼み込んで彼女を紹介してもらったはいいが、話せば話すほど宇宙人には思えなくて…

レビュー…
こうまで徹底して、花梨・るーこ・貴明のセットで描き続けられると、いっそ潔いくらいである。
編集からの指示か? と邪推してしまうほどだが、実際問題、良質な会長アンソロ製造機たるストライク平助氏が、他キャラメインに移行してしまうと寂しい限りなので、今後も継続して、3人セット+αでがんばって欲しいところ。
それにしても、異色キャラの名を欲しいままにする会長にしろるーこにしろ、ストライク平助氏の手にかかると不思議なことに両者ともごく普通の女の子に見えてくる。
無論、会長のミステリー一辺倒なところや、るーこの"ちー"など、当人たちのポイントアイテムはしっかり持たされているから、個が周囲に埋没するわけではない。
が、彼女たちが抱える悩みも怒りも喜びも、決して人外のそれには陥っていない。
文化と生活様式のずれが生み出すコミュニケーションのすれ違いは、我々が日常でも体験するごくありふれた悩みに過ぎないし、その解決についても、双方の努力、すなわち、相手を理解したいという、人の根源的な情動によってなされている。 作者の目は決して、彼女たちを「異質な存在」として見てはいない。等しく、彼女たちが彼女たちである「個性」として存在を認識し、愛している。
そのことが、二次創作における他作家と一線を画す、ストライク平助氏の持ち味だろう。

本作にしろ他作品にしろ、単なる「萌え」には終わらない、氏の創作思想が横溢している。
その作品世界に身を委ねたとき、読者は笹森会長やるーこの、愛すべき人としての魅力を、そこに再発見するのだ。

『男の子 女の子』 ToHeart2コミックアンソロジー VOL.9(一迅社)

あらすじ…
「女の子が苦手なんだ」という突然の貴明の告白に目を白黒させる笹森会長。
なるほど、そういうことなら私が何とかしてあげよう!

レビュー…
『たまご色タイフーン』以来、久々に指針をユーモアに振り切った作品。ヘタレな貴明と、天衣無縫の笹森会長が織り成す、コミカルなやり取りが楽しめる。

それにしても、氏の描く会長は可愛い。絵柄がどうとか台詞がどうとかではなく、楽しいときには思い切り楽しみ、泣くときには大声で泣き、笑うときには全身で笑っている、その一所懸命な動きやしぐさが、たまらなく愛らしいのだ。
ここで、名迷台詞集でもピックアップした、笹森会長を語る上で外せない一言を再度あげておきたい。

「早くベルが鳴るといいね、タカちゃん」

UFO探知機を作成したときに会長が口にした一言である。
普通は言えない。
例えUFOを心のどこかで期待していたとしても、常識や体裁や諦めが、この言葉を我々の口の中に押し込めてしまうだろう。
しかし、会長はそうではない。好きなものを、大好き、と声を大にして言える心を持っている。
この素直な心が会長の魅力であり、愛らしさなのだと、私は思う。
ストライク平助氏の描く会長が魅力的なのも、まさにこの笹森花梨という少女の素直な心をしっかりと描いているからに他ならない、そう思うのだ。

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