笹森会長アンソロ作品レビュー 〜その他作家編〜
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『素敵な何かっていうか耳』
  広瀬まどか:ホビージャパンコミックス「ToHeart2アンソロジーコミック」(ホビージャパン)

あらすじ…
「だーれだ」と、お昼休み恒例のイタズラで貴明の前に現れた笹森会長。
しかし、今日の会長は一味違っていた。その頭から、ウサギの耳が…?

レビュー…
昔、「うる星やつら」で、ラムの角が牛の角になるという話があったが、こちらは会長の頭にウサギの耳が生えるという話。
作者が何を考えていたのかはわからないが、とりあえず、萌え指数メーター振り切りの会長を描いた広瀬氏には拍手を送りたい。

内容は、とにかくウサ耳会長をどれだけ可愛く描くか? ということに全精力が傾けられ、ストーリー自体は無いに等しい。
呼び捨てに照れる会長、定例部会を開催する会長、「うさー!うさー!」とウサギの鳴きまね(?)をする会長、「…しっぽ、見る?」と切なげにスカートを持ち上げる会長…
…うあー、こいつは俺の嫁ッ! と窓の外に向かって叫びだしたくなるような、キュートな会長のオンパレード。
会長ファンなら一度は目を通すべし。

『おい見ろよ!笹森さんがまた面白いこと言い出したぞ!』
  内々欅:ホビージャパンコミックス「ToHeart2アンソロジーコミック」(ホビージャパン)

あらすじ…
ハリキリ過ぎた活動はついに、クラブ活動停止の憂き目を見ることに!
そこで笹森会長が提案した打開策は、なんとダミー同好会を設立して周囲の目をごまかしつつ活動しようという…

レビュー…
妙ちくりんなハイテンションと、予想外の角度から放たれるギャグが異彩を放つ内々欅氏。本作でも、他に類を見ないその独特な感性が横溢した、ヘンな4コマ作品となっている。

とにかく、開始から終了まで、ぶっちぎりのテンションが続く。そもそもタイトルからして普通ではないが、キャラクターたちも完全に普通ではない。
るーこに襲い掛かる会長、事も無げに霊体験を語る愛佳、デフォルトアイアンクローの環、臨死体験の雄二に、魔球を投球(しかも失敗)する由真に、怪談が開始しないこのみ…
ストライク平助氏の作品について、登場人物が普通の子に見えるというようなことを以前に書いたが、内々欅氏の作品については、登場人物が普通の子には絶対見えない。
ゲゲゲの鬼太郎に変化する会長など、氏の他に誰が描いただろうか?

普通のコミックに飽きた人にぜひ。

『ミステリー×ミステリー』
  泉美アムル:ブロッコリー「ToHeart2〜あなたが恋する物語 vol.2〜」(ブロッコリー)

あらすじ…
大好きなタマゴサンドを抱えて、うきうきランチタイムの笹森花梨。
ふと、渡り廊下ですれ違ったは自称・宇宙人のるーこ・きれいなそら。
気づかれないよう、そっと尾行する笹森会長だったが…。

レビュー…
会長コミックには多い、花梨&るーこの組み合わせで語られる、まったりストーリー。
物語自体は、特筆すべき変化の少ないほぼ直球勝負のもの。
ただ一点、随所に登場する脇役キャラクターの扱いはなかなかに秀逸。
通りがかった草壁さんに反応した方位磁石について、会長が慌てふためく様や、会長の叫びに遠くで反応する貴明など、ニヤリとさせられる場面に作者の"粋"を感じる。

小技の効いた、小憎らしい作品といえるだろう。

『愛しのタマゴサンド』
荒木風羽:マジキューコミックス『ToHeart2アンソロジーコミック1』(エンターブレイン)

あらすじ…
河野貴明は悩んでいた。「どうすれば無事にタマゴサンドを食べることができるか?」。
幼馴染にして悪友の雄二に相談するも、なかなか良い解決策も見つからず…。

レビュー…
貴明のところだけに出没するタマゴサンド泥棒と来れば笹森会長以外にはいない。
本作は、ミックスサンドの中のタマゴサンドを奪われ続ける貴明が、いかにして、安全にタマゴサンドを食するか?という命題について悩むアフォな作品である。
こんな悩みを相談される雄二もたいがい気の毒だが…。

まぁ、貴明はともかくとして、画像を見てもわかるとおり、会長のキュートさは秀逸。
こんな子になら、タマゴサンド奪われてもいいよなァ…。

『行け!かもりん探検隊』
 U-hi:マジキューコミックス『ToHeart2アンソロジーコミック1』(エンターブレイン)

あらすじ…
クラブ活動はいつだって、スリルとサスペンスの嵐、嵐、嵐!
これは、ミステリ研究会の、その知られざる活動内容に密着した、感動のドキュメンタリーである!

レビュー…
副題(?)に「人類未踏の古代遺跡に失われた秘宝は実在した」とあるが、内容とは関係ない。
ストーリーは、笹森会長ならぬ花梨隊長、貴明隊員、向坂雄二カメラマンの3人組を構成員とみなした、ToHeart2版『行け!川口浩探検隊』あるいは『藤岡弘探検隊』である。

…そういえば、両方「ひろし」なんだね。今気づいた。

本作の会長、いや隊長は絶好調である。
ゲーム本編で見せた小悪魔性を存分に発揮して貴明や雄二を振り回し、向坂環や柚原このみまで味方に巻き込んで、時にはしっぺ返しをくらいながら、「クラブ活動ドキュメンタリー」を制作していく。
犠牲になったとしか言いようのない貴明や雄二には気の毒だが、やはり会長はこうでなくっちゃ!というのもまた真実。
まぁ、雄二などは、ちょっとうれしい映像も取れたことだし、トントンかな…?
貴明は、まぁ、それが役目ということで。

『部員狩』
 黒八:マジキューコミックス『ToHeart2アンソロジーコミック1』(エンターブレイン)

あらすじ…
本日のミステリ研の活動内容は、新入部員の確保!
…シンニュウブインというUMAじゃなくってね?
でも、最近はアンケート詐欺に引っかかる子も少ないから…。

レビュー…
ストライク平助氏を、表の笹森花梨マスターとするなら、黒八氏は、まさに裏の笹森花梨マスター。
ここ最近は会長作品を描いていないが、発表されている2作品では、いずれも質の高いギャグを楽しめる。
本作でも、悪名高きミステリ研の本領発揮とも言うべき、無茶な活動内容を、これでもかとばかりに繰り出していく。

内容はというと、あの手この手で新入部員の勧誘と称した迷惑活動を行うというもの。
しかし、何しろターゲットがToHeart2キャラである上、実行犯がかもりん&タカちゃんなわけだから、うまく行くはずもない。
しかも、それが黒八氏の筆の上でのことなれば、結果はいわずもがな…。

ほぼお約束のギャグも絡めて、スウィングしちゃったストーリー展開。
加えて、ラストの会長の笑顔など、押さえるべき萌えポイントはきっちり押さえて隙もない。
ギャグに振った会長作品の秀作の一つである。

『たいくつ』
  祥寺はるか:ToHeart2コミックアンソロジー VOL.5(一迅社)

あらすじ…
大好きなタマゴサンドを求めてコンビニをあちこち探し回っている内に、いつもは通らない遠くの方まで来てしまった笹森会長。
その帰り道、近道をしようと公園を横切ろうとした時、滑り台の上で空を見つめている少女を見かける…

レビュー…
独特の繊細なタッチで描かれる魅惑的な絵柄もさることながら、ごく短い中に、驚くほど深い世界観を演出する、その卓越した手腕が光る祥寺はるか氏。
その作者の中でも、トップレベルの完成度を誇る傑作短編が本作である。

物語は、「何もない毎日はちょっとたいくつ」という、およそ笹森会長らしからぬモノローグで幕を開ける。
全文としては、
「駅前にアイス屋さんができたとか、となりのクラスに転校生が来たとか、そんな毎日も楽しいけれど、なんかたいくつ。何もない毎日はちょっとたいくつ」
というもの。

一般に描かれるであろう笹森会長のイメージといえば、いつもハイテンションで、この世の全てが楽しくて仕方ないとでもいうような、弾ける笑顔と歓声であろうか。
たいくつなどとは無縁の境地にいるかのように思うほど、会長のイメージはどこまでも「陽」である。
しかし、思春期の女の子が一人いれば、そこに悩みの一つや二つ浮上するのは当たり前だし、そもそも、全ての局面で単一の感情しか表出しない人間などこの世には存在しない。

明るく笑っているその裏で、そっとため息をつけるのが、人間という生き物独特の特性であろう。

笹森会長にしても、世界の不思議を見つめているだけで生活しているわけではない。
彼女もまた、日常という檻にとらわれた囚人である以上は、同心円を描くかのような起伏の乏しい"生活"に心を砕かなければ生きていくことはできない。
それを指して「たいくつ」と評価するのは、それがどれだけイメージに合わなくとも、ひとりの人間の感情として、至極まっとうなことなのだ。

だが――
そんなたいくつな毎日に身をやっしているからこそ、時に訪れる"不思議"が、綺羅星のごとく光輝く。

公園を横切ろうとした会長の目に入った人影。
足元の猫をお供に、夜空の月を見上げて佇んでいる、桜色の髪の不思議な少女。
笹森会長アンソロではおなじみの宇宙からのお友だち、"るーこ・きれいなそら"さんである。

彼女が両手を挙げて「るー」と呟いた瞬間――文字通り、世界はその姿を変える。
笹森会長を取り巻いていた風景は一瞬にして宇宙の星間へと景色を変え、慣れ親しんだたいくつな日常は、どこへとも判らぬ彼方に消えてしまう。

――気がつけば、元いた日常へと回帰している笹森会長。
あの一瞬広がった宇宙はどこにもなく、再び平凡な日常の世界が広がっているばかりだが、るーこの姿は、ありがたいことに宇宙と一緒に消えたわけではなく、まだそこにあった。
当然のごとく彼女に興味津々で話しかけるその会長の表情には、つい先刻まで日常に対して「たいくつ」と嘆いていた、あのつまらなそうな影は微塵もない。我々がよく知り、そして愛した、笹森花梨という少女の、陽の光のような笑顔がそこにある。

そして、ここからのるーことの会話の内容がとにかく秀逸。

会長の"不思議なことへの想い"を語った物語はいくつもあるが、この物語で語られるそれは、筆者が知る限りでは、おそらく最も正鵠を射たものに思える。

そこには暗い影もなく、寂しい思いもなく、ただ純粋な好奇心と、そしてたくさんの優しい心がつまっている。

「ううん、人はね、きゃーって言いながら、ジェットコースターに乗るもんなんだよ」の言葉は、ゲーム本編での会長の言葉たちに並ぶ、掛け値なしの名台詞であろう。

そして――最後に語られたモノローグ。

「毎日はちょっとたいくつ。でも――」に連なる言葉。

冒頭のモノローグの続きにして対になるこのラストシーンに、祥寺はるか氏の感性が横溢する。

笹森会長の日常と非日常、その双方を見つめ、そのどちらにも片寄ることなく、両者を最も幸せな形で作品世界に結実させた、文句なしの傑作短編である。

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