「たまご、たまご、タマゴサンドを食べちゃうぞっと♪」
「ようこそ、ミステリ研究会に!
私がミステリ研の創始者にして初代会長の笹森花梨だよ!」
「ああ、彼女もうちの会員だったんだけど、さっき死んじゃったの。いかにも病弱そうだったでしょ?」
「子どもの時とか、ワクワクしなかった?」
「だから……タカちゃんが正会員で入ってくれないと、ミステリ同好会って、始まる前に終わっちゃうの……」
「きゃははっ、今時そんなの流行らない……
けど、すごくオカルトで超科学でミステリちっくだよ!」
「ふふっ、敗者の悲鳴ほど、この耳に心地良いものはないよねぇ。タカちゃん、おとなしくミステリ研に入って。最初は優しくするから」
「タカちゃん……大胆だね」
「ねぇ、タカちゃん。もしもの話なんだけど……。してもいいかな?
今、私が、『助けてぇ〜〜〜!!』とか大きな声で叫んじゃったりしたら……。
タカちゃん、ヒトとして破滅かなぁ」
「うん。小さな研究会をもり立てていく会長と正会員だよ!
ってことで良かったんだけど……
今となっては『支配者』と『従属者』ってとこかなぁ」
「じゃあ、ミステリ研究会の定例部会をはじめまぁす! ぱちぱちぱちぱち! ほら、タカちゃんも拍手!」
「だって、世の中は、こんなにたくさんの不思議であふれているんだもん、
興味を持たないわけにはいられないよね」
「早くベルが鳴るといいね、タカちゃん」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
序盤は、会長の小悪魔性がど真ん中ストレートで剛速球。
オフィシャルのキャラ紹介では「彼女のたいていの試みは失敗に終わってしまう」なんて書かれてますが、 こと、相手が貴明ともなれば、その打率は飛躍的に向上。環ちゃんより上か?
「今となっては『支配者』と『従属者』ってとこかなぁ」
って…
( ´∀`) …言われてみたいなぁ。
とりあえず、この中で、いちばん名台詞といえそうなのは、
「だって、世の中は、こんなにたくさんの不思議であふれているんだもん」
かなぁ。人それぞれですけどね。
でも、こんなに世界を肯定する発言はなかなか出来ないよなぁ。
毎日がとても楽しい。些細なことでも、全身でその喜びを享受できる。
…それは、きっと、とても優しい証拠。
大人になると、嫌でもそういう不思議から遠ざかってしまう。
毎日は退屈な現実の消費に費やされ、自己は封印せざるを得ず、ただ波風立てないことだけを願いながら、誰かの顔色を伺って過ごしていく…
…そんな毎日の積み重ね。
いつからだろう?
UFO探知機を前に、「早くベルが鳴るといいね」 と、素直に言えなくなったのは。
笹森会長があの言葉を口に出来るのは、ひょっとしたら…彼女がまだ子供だからなのかもしれない。
でも、それでも、私は信じたい。
彼女が、大人になっても、まっすぐな瞳で、世の中の不思議を語れることを。
きらきらした瞳で、幸せいっぱいに毎日を歩いていくことを。
それは、きっと、汚れてしまった自分が望んだ夢。
あの頃、確かに持っていたはずの心を失ってしまった自分の、ささやかな希望。
彼女の道に、幸福の白い花が咲きますように。今はただ、そう願うのみ。
…それと、自分の好きな推理小説のひとつに、下記のような台詞が出てきます。
笹森会長のライフワーク、その一面の真実を付いた言葉だと思われるので、引用してみます。
「大人になるほど、こんな素敵は少なくなる。努力して探し回らないと見つからない。このまえ、君は、科学がただの記号だって言ったけど、そのとおりなん
だ。記号を覚え、数式を組み立てることによって、僕らは大好きだった不思議を排除する。何故だろう? そうしないと、新しい不思議が見つからないからさ。
探し回って、たまに少し素敵な不思議を見つけては、また、そいつらをひとつずつ消していくんだ。もっともっとすごい素敵に出会えると信じてね……。
でも、記号なんて、金魚すくいの紙の網みたいにさ、きっと、いつかは破れてしまうだろう。たぶん、それを心のどこかで期待している。金魚すくいをする子供だって、最初から網が破れることを知っているんだよ」
(著:森博嗣 『幻惑の死と使途』(講談社)より)
素敵な何か、それはきっとどこにでも転がっているもの。誰もが手に出来るもの。
でも、新しい素敵を見つけるために、もっと素敵な何かを見つけるために、
この道の先に、もっともっとすごい素敵に出会えると信じて…
彼女は今日も、輝くような笑顔で駆けて行く。
――中盤編へ
(画像:(c)Leaf/AQUAPLUS 「ToHeart2」)
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