自称名探偵氏の事件簿「凶器消失殺人事件」〜ヒント編〜
★探偵役の名前が書いてないよという問題★
| Novels | Home | 

「ははぁ、するとこれは推理小説で言うと、凶器消失のカテゴリーに入るわけだね」際前まで暇をもてあましてギターをかき鳴らしていたらしい、茶髪あごひげという古き良きロックミュージシャン風の自称名探偵氏は、妙に横揺れのリズムに抑揚を乗せてそういうと、ふと目をぱちくりさせて「あ、そうか、少し持たせぎみのほうが感じが出るなぁ…」と呟きながら、懐からこれまた自称『探偵手帳』を取り出してなにやら書き付けた。覗き込むと、『サビ前6〜7、ひく。きっクゥ〜〜といった感じ』とある。「ブラウン神父いわく、小石を隠すなら浜辺、木の葉を隠すなら森…だね。神居君、チェスタトンは読んだ?」

「『折れた剣』ですか。読みましたけど…。この事件に関係あるんですか?現代日本ではちょっと成立しないトリックですよ、あれ」警察官のくせに無類の推理小説ファンである神居警部は、記憶を探るでもなくすらすらと作品タイトルを口にする。

「そりゃあ、あのメイントリックは関係ないよ。――が――なんていう光景が新聞社内で広がったら、世界中が仰天するって」きいきいと断末魔の悲鳴のごとき泣き声を上げる回転椅子に責め苦を与えながら、自称名探偵氏は今にもパイプをくゆらせ始めない勢いで、伏字にせざるを得ない発言を吐き散らす。「でも、トリックはともかく、ブラウン神父の言葉は、この事件最大のヒントになるよ」

 この言葉に驚いて、もう判ったんですか!?と神居警部が詰め寄ると、自称名探偵氏は「見えていてもそれと判らなければ、消えたのと同じだとは思わないかい?」と、謎のような言葉を呟いて、子供のようにくすくすと微笑んだ。「材料は全てそろっているよ。ヒントなんて事件が起こる前からあるようなものだね。小説だったら、きっとこのあたりか、もっと前に『私は読者に挑戦する』なんていうあれが入るんだろうね…」

 ――――――――――――つづく
Base template by WEB MAGIC.   Copyright(c)2007 Walkway of the Clover All rights reserved.


inserted by FC2 system