委員チューは小動物である 〜活動編〜
第二回葉鍵板最萌トーナメント出展作品
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 委員チューの活動の大半は、書庫の中にある未整理の書籍を系統立てて分類し、データベースに登録されたナンバーのバーコードを表紙と裏表紙に貼り付けて書棚に納めるという、本の整理に費やされる。
 特に誰かに依頼されたわけでもないし、格別必要な作業というわけでもないのだが、小さな身体を右に左に走らせながら一所懸命作業する姿が愛らしく、一部の図書委員長を除いては、微笑ましく見守られているというのが現状である。
 今は、目の前に並べた本について、分類のバーコードを貼り付けている作業の真っ最中だ。
「えっと…『The Judas Window』は、海外文学の原著だから…分類24」
 分類リストを確認しつつ、PCからプリントアウトしたバーコードを選択して切り取り、保護シールを用いて書籍に固定する。
 一連の流れの内、委員チューが今行っているのは、最後の保護シールを貼り付けているところだ。
「うーっ、よいしょ、よいしょ」
 通常であれば、指先でちょちょいとできる程度の作業だが、手のひらサイズスケールの委員チューにとっては、なかなかの大仕事である。普通サイズの人間で例えれば、タオルケットくらいの大きさの粘着物を扱っているのと同じようなものだ。
 台紙から剥がすだけでも一苦労である。
「もうちょっと……あっ?」
 もう剥がし終わる…と言う所まで持ち上げたところで、委員チューが声を上げる。見ると、シールと台紙の切断部分が繋がったままのところがある。製造過程で、カッターが入りきっていなかったらしい。
「う…うーっ! うーっ!」
 引きちぎろうと、力を込める委員チュー。しかし、切れていない部分が意外と幅広く、一向に切れる様子がない。これまた普通の人間にとってはちょいと引っ張れば事足りる程度のことだが、委員チューにとっては…。
「きゅーっ! きゅーっ! あーうーっ!」
 掛け声を上げながら引っ張る委員チュー。こういうとき、人に助けを求めようとしないところが、彼女の最大の欠点であろうか。別の場所で書棚に本を納めている貴明をよんで切ってもらえば良いことなのだが『迷惑かけられないし…』と遠慮してしまうのだ。
 そして、たいていそれが裏目に出る。
「ううーっ…」
 涙目になりながらなおも引っ張り続ける委員チュー。しかし、切れない。いや、端の辺りが少し切れ始めてはいるのだが、切断するにはいたっていないというのが正確なところだ。
「だいじょうぶ、もう少し、あと少し、がんばれるもん…」
 そう言って、自分を鼓舞する。

 まぁ、とりあえず、無駄かと思わなくもないが、今回も暖かく彼女にエールを送っていただきたいと、読者の皆さんにお願いしておく。
 すなわち、『委員チュー、がんばれ!』と

「すーはー、すーはー」
 深呼吸を一つ、二つ。精神を高めていく。一気に引っこ抜くつもりらしい。
「……………………えいやあっ!」
 掛け声一閃、思い切り引っ張る委員チュー。
 その掛け声は、彼女の願いでもある。

  ぷちっ

 と、願いが通じたか、ついに保護シールが台紙から切り離された。
「や、やった…た、たた、う…」
 しかし、力を込めて引っ張っていたものの抵抗がなくなればどうなるか? 当然、解放された抵抗は、そのまま逆方向に全て流れる。引っ張っていた運動と合わされば、あとは言わずもがなの状態。
 勢い余って、後ろにすっ飛ぶ委員チュー。放せばいいのに掴んだままの保護シールも一緒に。
「うあああっ!?」
 すてーん、と見事な擬音を響かせて委員チューが転ぶ。
 そして…

  ぺたっ

「わひゃあ!」
 勢いで裏返しになった保護シールが委員チューに覆いかぶさってくる。
「あ、あ、あ、あうー」
 慌てて逃れようとする委員チューだが、時既に遅し。加えて、生来のぶきっちょさが、むだな動作を連発し続け、じっとしていればたいして粘着しなかったであろう保護シールがべったりと貼り付いてしまう。
 哀れ、机の上に貼り付けにされてしまう委員チュー。
 …心配しなくても、今回も読者のエールが小さかったせいでは決してない。
 要するに、それが、運命なのだ。
「う、うう…うぁああーん、うぁああーん」
 泣きながら足をばたつかせるが、一度貼りついたシールはそう簡単には外れない。
 戻ってきた貴明が呆れ顔で助け出すまでの10分間、醜態をさらし続ける委員チューであった。


―――――――――――つづく
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