委員チューは小動物である 〜食事編〜
第二回葉鍵板最萌トーナメント出展作品
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 委員チューは雑食性なので、少なくとも人間の食べるものなら好き嫌いなく何でも食べる。中でも甘いお菓子が大好物で、ゼリービーンズなど特に目がない。
 今も、キッチンの棚に隠したゼリービーンズを狙って、カラフルな粒々を擁した、球形の広口瓶のコルクを引っこ抜こうとがんばっているところである。
「ううーん、ううーん…」
 なんだか開始早々オチが見えた気もするが、語り始めてしまったものは仕方がない。
 ともかく、前回フタを閉めた時に強く閉めすぎたのか、コルクはぴっちりと口に貼り付いて抜ける様子もない。委員チューにしてみれば渾身の力を込めて外そうとがんばっているのだが、腕立て伏せを一度もできないという事実は厳然たる現実として目の前に立ちはだかっている。
 と、一旦手を休めてなにやら長考に入る委員チュー。顎に手を置き、自慢の耳と尻尾をぴくぴくさせて辺りをうろうろ。
「かくなるうえは…」
 どうやらなにか策を思いついたらしい。
 やおらコルクにの角に手をかけると、うーんうーんと唸り声を上げながら引っ張り出す。
 …別段何か変わったところはない。どうやら、実は何も名案など思い浮かばなかったようだ。
「ひらけーっ、ひらけゴマぁーっ!」
 アリババじゃあるまいし、呪文を唱えたところでコルクはびくともしない。

 まぁ…相変わらず無駄とは思うが、今回もお願いだけはしておこう。どうか彼女に暖かいエールを送っていただきたい。
 すなわち、『委員チュー、がんばれ!』と

「うりゃあ〜〜〜っ!」
 掛け声一閃、コルクに身体ごとしがみついて、思い切り引っ張る委員チュー。
 その掛け声は、彼女の願いでもある。
 …が、外れない。切れかけの保護シールとはモノが違いすぎる。
「ひらけゴマぁー! ゴマーなんだってばぁー!」
 そこまでしなくても貴明か誰かに頼めばいい話なのだが、それをしないのが委員チュー。遠慮もあるのだが、お菓子を隠れて食べようとしていたのが後ろめたいのだろう。
「うぁ…?」
 …と、広口瓶がぐらりと揺れる。
「あ、あ、あーっ!?」
 どうやら、委員チューがしがみついていたせいで、重量バランスが崩れたらしい。底の平たい部分が持ち上がり、大玉転がしよろしく、球形の広口瓶がコロンと転がった。
「ふみゅっ!」
 哀れ、自分の方向に転がってきた広口瓶に轢かれる委員チュー。中身のゼリービーンズが既に減っていたこともあってか幸い怪我はなかったが、見た目は相当アフォである。
 しかし…

  ぱかっ

「あっ」
 なんという僥倖か、転がった衝撃でコルクのフタが抜け落ちた。とたん、ゼリービーンズの甘い香りがあたりに漂い始める。
「ふわわ〜…」
 ふにゃり、と顔をとろけさせる委員チュー。とろとろに溶けて、食べない内から今にもほっぺが落ちそうな勢いだ。
「赤いの、青いの、黄色いの…どれにしようかなぁ〜」
 ふらふらと広口瓶の口によっていく委員チュー。しかし、ここで問題発覚。
「と…届かない〜…」
 残りのゼリービーンズが少なすぎるのと、さきほど転がったせいで、口から遠くの位置に固まってしまったせいで、獲物まで手が届かないのだ。
「うーん…うーん…」
 精一杯手を伸ばすが、やはり届かない。
「伸びろ〜…伸びろ手〜…」
 伸びるわけがないだろう。
 やがて、埒が明かないと判断したのか、上体を瓶の口に乗り出して、さらに深く手を伸ばす委員チュー。

 ここで、再度読者の皆様の力を請う次第である。先ほどの幸運をもう一度。
 すなわち、『委員チュー、がんばれ!』と

「伸びろ如意棒〜…」
 何とか指がこする程度にはなったが、掴むにはあともう少し、届かない。そろそろ諦めるか助けを呼ぶかしたほうが良いだろう。
 しかし、目の前のご馳走の誘惑に抗えるような強靭な精神力は委員チューにはない。よせばいいのに、さらに上体を乗り出してゼリービーンズを掴もうとする。
 それが間違いの元だった。

  ぐら…

「ひゃ☆」
 広口瓶が傾く。委員チューが乗り出した重量に耐え切れなかったのだ。いや、彼女が太っているという意味ではないが。
 とにかく、そのまま運動に逆らうことなく、コロンと瓶が転がる。
「きゅうーっ!?」
 再度轢かれたか? と思いきや、さにあらず。
「あ、あ…あーっ!」
 口に上体を預けていたおかげで、轢かれることなくそのまま瓶の中に収まる委員チュー。しかし、幸運は続かない。そのまま転がり続けてくれれば何事もなく助かったのだが、今度は勢いが足りなかったのか、瓶の口を下にしたまま停止してしまう。
「…………うそ…………」
 傍らにはゼリービーンズ。目の前にはガラスの壁。出入り口は床にぴっちり。
「と…閉じ込められちゃったーっ!」
 慌てて瓶の口に手をかけて持ち上げようとするが、瓶はびくともしない。自身のサイズに対して、瓶の重さのほうが上なのだ。
「うーん、うーん」
 がんばって力を込めるのだが、やはり瓶は動かない。完全に閉じ込められてしまった格好である。
 なんというか、ここまで来ると哀れを通り越して微笑ましくもある。
 とりあえず、お約束ではあるが、これは皆様のエールが間違った方向に作用したわけでは決してない。
 要するに、これが、運命なのだ。
「う、うう…うぁああーん、うぁああーん」
 自身のあまりの間抜けさに泣き出す委員チュー。
 しかし…
「…ぐすっ……はむ…はむはむはむ……ぐすっ……」
 傍らに転がったゼリービーンズを引っつかむと、そのまま口元に運んで、はむはむと齧りだす。泣きながらも、食欲だけは忘れないらしい。
「ぐすっ…………………はむはむ…………………………にへ」
 涙顔で微笑む委員チュー。

 どうやらそれなりに…幸せなようだ。


―――――――――――つづく
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